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六月に雨が

You should take your umbrella.

東京を知らない私が読んだ「東京百景」

 今週のお題「選んでよかったもの」

 

息子から突然「何か欲しいものを言って」とランプから出てくる精みたいなことを言ってくれる電話があったので「あ…あ、あ」と焦ってしまいながらも選んで贈っていただいた本。

 

東京百景 (ヨシモトブックス)

東京百景 (ヨシモトブックス)

 

 

東京は数えるほどしか行ったことがない。両手で足りるほどの行ったことのある場所はまばらな点で、でも頭に浮かぶ東京は巨大な都市という大きな、大き過ぎるくらい大きな塊で、それと少しの経験はまったく結びつかず、自分の中に明確な像を結ぶこともない。

 

けれど彼の物語、描かれた風景を楽しく読んでいるうちに、どこか懐かしく、自分のことをあれこれ思い出していた。

 

本の始めに書かれた文章に、知らない場所の話ばかりだというのにそう思った理由も、思えばはじめから書いてあった。

 

東京に初めて住んだのは十八の時だった。その時、僕が頭の中で広げた東京の地図は限りなく白紙に近いものだった。これから自分で地名を書き込み、線を引き、色を塗る。そんな淡い期待と同時に底知れぬ不安も感じていた。「どうしてこんな場所まで来てしまったのか」と激しい後悔に襲われた。一人暮らしの夜は幽霊も怖かった。~はじめにより

 

書かれている話はどれもほぼ短いけれど強く入ってきてその風景を見た若い日の彼の気持ちに共感するように感じたのも、私も昔10代の頃知らない町に一人移り住み、なんだかよくわからないながらも、一つの地名から点をたくさん作っては線につなげていくように、点や線の上や間や脱線した場所で色々な人に会い、様々なことを経験しながら、どうにか自分なりの地図を作っていたことがあったからだった。

 

何かになろうとか、大したことがあったわけでもないけれど、後悔ももちろんあれば、失敗も、嬉しいこと、困ったこと、情けなかったこと、ありがたかったこと、痛い目にあったこと、人を傷つけたこと、泣いたこと、笑ったこと・・・何者でもないことの自由と不安にゆらゆら(時々ブルブル)しながら過ごした日々が走馬灯のように、いやまだ死なないけど、思い出そうとしなくてもいくらでも浮かんできては頭の中で回っていた。

 

外に出たら、神社の前の木から青い実が落ちた。夏なのに熟していない実が落ちたことに少し心が動いた。そういえば最近感動してないなと思った。そしたら僕の前で同じように落ちた実を見ていた女の子がいて、本当に自分勝手なのだけど、この人なら助けてくれるんじゃないかと思った。

 

「池尻大橋の小さな部屋」という恋の話が、最後には涙ぐんでしまったのだけれど、お金がなくて食べることが出来ないでいた自分でも危ういという日々の中から始まったという出来事に

バス賃が無くてクタクタになって歩いて帰った部屋の、自分の部屋のドアノブにコンビニの白い袋がぶら下がっていて、ビクビクしながら開けたらそれはお互いサイフの中に67円とかくらいしかないことがよくある者どうしの友達からで、食パンと卵と牛乳、それだけの中に「食べえ」とだけ書いたちぎった紙が入っていたのを見た時の気持ちをふいに思い出してしまって

又吉さんの話に彼女の面影に、自分の過去の心情にそしてその友達に…ともうあっちこっちに向いてどっちを向いてもどこかせつなくて泣けてくるのがしまいに笑えてきて…と気持ちが大忙しになっていた。

 

そうして読んでいるうちに、東京を知らず具体的な地名も分かるわけではないけれど、一つの巨大な塊が、色んなことをしながら色んな人の住んでいる場所がたくさん有って出来ているんだなと、当たり前の事だけど今まであまりうまく実感を伴って思えなかったことを、少しだけ近い気持ちで思っていた。

 

 

だからもしかしたら今若い人だけでなく、若い日を通り過ぎた人にも楽しい本じゃないかと思う。東京を知っている人はもちろんより楽しめるだろうな、と思うけれど、それでも読めば自分だけや自分と誰かのその時やあの場所を、思い浮かべる本かもしれない。

 

 

選んでよかった。貰いものだけど。

 

 

ところで私は幽霊なんて信じない。ただ一人暮らしじゃなくなってからも夜に布団から足と手だけはぜったいに出さない。お化けなんていない。ぜったい。でも出さない。

 

 

 

 

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