つきせぬ想い
不治の病の少女と、売れない音楽家との恋という話に、悲恋ものなんて・・・と思った気持ちはあっと言う間に忘れていた。
クルクルとよく動く瞳、美人というのじゃないけれど、喋って動いて歌って…なんて魅力的なんだろう。楽しいと言葉ではなく感じさせてくれる女の子・ミン(アニタ・ユン)と、売れなくてそんなこんなで恋人とも上手くいかずちょっと鬱屈している音楽家の男・キット(ラウ・チンワン)。二人が出会い、恋をして、そして_____という話だけれど、これは生きていることの喜びを描いた映画なのかもしれない。
二人が出会った公園、古びたアパート、夜の廟街、金魚市にプッチャイゴウ…
平凡な日常が光り輝いて、いつまでも忘れられない光景になり
やっと手に入れたささやかでも本当の幸福を前に起こった出来事に呆然としながらも、ミンのことを想い、精一杯愛しているキット。彼はこの先もきっと、ミンへの愛を終わらせることがなかなか出来ないだろうと思う。この主題歌そのままのように。
だけどそれは悲しいだけのことなのかなと、涙が止まらないけれどつらい映画ではなく、忘れられない映画になった。
ほんの少し影があり、それがより彼女を輝かせてみせるんだなぁと感じるアニタ・ユンと、愛想のない顔だけれどそんな彼の愛情表現がもうたまらないラウ・チンワン。
キットと上手く行かずに別れた元恋人で売れっ子歌手のトレイシー(カリーナ・ラウ)も、こんな役がほんとによく似合っているけれど、憎めないというかどこか根はお人好しそうな可愛げがあって、ミンが彼の事を頼むわとお願いしていくのも分かる気がする。
ミンのお母さんやサキソフォンプレイヤーでミンのおじさん張保仔、歌手のリンも、あの場所で今夜も歌い演奏をし芝居を見せているんじゃないかと、そんな気がしてしまう。
原題:新不了情
監督:イー・トンシン(爾冬陞) 1993年香港
出演:袁詠儀 劉青雲 馮寶寶 秦沛 劉嘉玲 呉家麗 張艾嘉
アニタとカリーナがレスリー・チャンを挟んでのややこしくも心躍るラブ・ストーリー「君さえいれば/金枝玉葉」(監督:ピーター・チャン)も涙と笑いがいっぱいの胸が熱くなる映画だったけれど、その一年前のこの映画もイー・トンシン監督の人々を見つめる目、その手で描かれる人々の姿がいつまでも温もりを残し、心の中で色褪せることのない映画になった。
これを見たなら次は同じくイー・トンシン監督ラウ・チンワン主演の「忘れえぬ想い」(2003年)を見て…と10年刻みの映画の旅がしたくなる。
今やすっかり貫禄のラウチンだけど、男祭りみたいな映画ばっかりで輝くわけじゃない。身に沁みてくるような普通の男の細やかな情、覗いてしまうような繊細さもたまらなく愛の映画を彩っているんだよ。
ケニー・ビーがこの映画を見て、サックスも吹けるしミュージシャンでもある自分が演じたらどうだっただろう?と思ったことがある、と話していたけれど、見ただけでバンザイしてしまう(魅力にお手上げ)阿Bだけれど、この歌もあの声で歌ってたのにはぎゃ~阿B~ってなったけど、でもこの映画は、自分の気持ち一つにさえ不器用そうなこのラウ・チンワンだから、こんなにいつまでも愛しい映画になったんじゃないかなと思う。