六月に雨が

You should take your umbrella.

人間喜劇

「電影是不會騙人的」

人間喜劇  2010年香港

人間喜劇 (電影) - 维基百科,自由的百科全书

監督:チャン・ヒンカイ(陳慶嘉) ジャネット・チュン(秦小珍) 

出演:チャップマン・トー(杜汶澤) ウォン・ジョーラム(王祖藍) フィオナ・シッ(薛凱琪) ホイ・シウホン(許紹雄) カーマ・ロー(羅凱珊)

 

 「低俗喜劇」の二年前のチャップマン・トー主演作。

 

「なぜかは知らないが、俺たちはいつもこうして香港にやって来る。声も出さずゆっくりと、まるで映画の中の殺し屋のように。これは映画が殺し屋に影響を与えているのか、それとも殺し屋が映画に影響を与えているのか…」

そう独白しながら、香港に出稼ぎに来た殺し屋・司徒春運(チャップマン・トー)。

相棒である夕陽(ホイ・シウホン)と再会を約束したビルの屋上で、大寒波の為に高熱を出し倒れてしまった春運は、テレビアンテナの様子を見に屋上に上がって来たこのビルの住人で新進の脚本家・諸葛頭揪(ウォン・ジョーラム)に助けられ、互いに無類の映画好きだった男たち二人の間には奇妙な友情が芽生えていくのだが…

 

 

画面に現れた瞬間、沈うつな顔をしていても「あ、きみは香港喜劇の人だね」と思うようなウォン・ジョーラム。案の定、助けた当のチャップマンにあらぬ疑いをかけられてしまうのも「仕方ないよね…」と納得してしまう過剰なフレンドリー、親切過ぎるコミカル。

気がついたら見知らぬベッドの中で素っ裸だった、という状況からの誤解だけではなく、殺し屋として一般人と関わるわけには…と 始末しようとするも高熱で力が発揮出来ない…というチャップマンの殺し屋なのに情けない姿と相まって、マヌケな二人の出会いから軽快に楽しい。

 

冒頭のモノローグから始まり「映画に関する映画」であることも伝わって楽しい予感に胸が高まる。最近はスリムになったチャップマン・トーの、スリム化以前のこの映画でのオールヌード(後姿だけよ)に、可愛らしさ、悲哀、可笑しみ…もうこの映画のすべてが表れているような気もする。

 

手厚い看病の後に回復した春運は「殺し屋に友達は要らない」と思いつつ、頭揪の心からの善を感じ、共に映画を鑑賞し号泣しながら意気投合していくうち、頭揪の悩みを打ち明けられる。

 

博愛精神溢れる天使のような女の子・天愛(フィオナ・シッ)に恋をしオクテながらも必死のアプローチが実って交際が始ったものの、ようやく結ばれたかと思いきや間もなく起こり始めた天愛の思いがけない言動に、耐え切れず自ら別れを告げていたことを引きずっている頭揪。

 

一方、春運は相棒の夕陽を探している間に、インターネットで殺し屋を募集している少女・陳美珍(カーマ・ロー)と知り合う。当初は自分を妊娠させた相手を殺してと頼む美珍だったが、相手のあまりの情けなさに呆れた末に自らの殺害を春運に依頼するのだった。

 

 

 

基本は毎度バカバカしいお話という調子で軽快な描き方の喜劇だけれど、天愛が日頃は良い子過ぎるくらい良い子で、愛を手にした途端に豹変したかのように頭揪を責め不信に苛まれてしまうのも、なぜそうなっちゃったのか、理由というか病の要因だろうなと思えることも、物語の中で多くは語られずとも伝わってきて(一応治療もちゃんと受けている)

驚きと恐怖のあまり受け止めることも出来ずに彼女を遠ざけたのも当然の反応のようにも思えるんだけど、ただそれで「即アウト」って終われるものでもない…と頭揪がただのお人好し、親切で世話好きなだけではなく、見知らぬ男・春運を助けたことに後悔も表れているように思えたり。

妊娠中のお腹を抱えて登場する一見豪快で自棄っぱちな少女・美珍の、自分を殺してと春運に依頼する心情も、それを受けての春運との奇妙な関わりやりとりといい、なんてことのない言動や見せる表情に、愛というのじゃないけれど、人と人との間にふと通いあうものもさりげなく感じたり。

 

 

 

映画と殺し屋という題材だけに、殺し屋と警官の友情を描いたジョン・ウーの「狼/男たちの挽歌・最終章」や、フォン・シャオガンの「戦場のレクイエム」という映画も、劇中劇としてパロディが登場するけれど
『戦場への輸送トラックに揺られる中ポケットからフィアンセの写真を取り出して「戻ったら結婚する」と語る兵士の身に起こる出来事』に、映画を見て思うことには何処も大差ないなーとか、映画への愛情表現も楽しく、
”電影是不會騙人的!”というのはそこでのチャップマンの叫ぶ台詞。

 

 映画は嘘をつかない。

 

一つの出来事が角度を変えて見れば喜劇でも悲劇でもあり、そんな中でのやるせなさ、ドーンと悲劇な中でももう笑っちゃうしかないこともあれば、笑っちゃうのがだけど悲しいねぇとか…この映画も確かにそんな人々の心情に嘘はないんじゃないかなと。
良いことばかりじゃないけど、悪いことばかりじゃないというのも本当で、そこに希望も描いていることも含めて思いました。
そこは香港の喜劇だから誇張はいっぱいあるけれど。

 

映画そのものだけでなく映画を作っている舞台裏も、パロディというか、新進の脚本家である頭揪がビッグな映画監督に『本物の殺し屋を招いて話を聞く』という場に呼ばれて…という一幕に、皮肉な笑いも感じるけれど

そこから春運の本当の姿、ただの映画に憧れる殺し屋気取りの男ではなかったことが明らかになり、けれど二人の間に本当に芽生えた友情、そして…と続いていく、喜劇の中に悲劇の予感を感じさせ始める展開も見事で、最終的にはちょっとファンタジック過ぎる感はしたけれど、楽しい映画だった。

 


そんな取材なんてするの?というのは香港の映画監督の、さすがに「殺手」とは言ってないけれど、黒社会映画を撮る時に本物の人達に会って話を聞いて…というような話を読んだり見た覚えがあるので、実際にあることのようです。ただこの映画に登場する「取材される殺し屋」は「と自称する人物」にしか見えない…というのも、色んな意味でミソなんだろうと思います。それはどこ辺りにまでミソつけてるのか?まではわかりませんが。

 


最後に思い出しましたが、殺し屋・夕陽のホイ・シウホンおじさんの「何もなくてもとりあえず情けなさそうな表情」もそれだけで可笑しいけれど、ちょっとカッコ良くなり過ぎるものの、それでもやっぱりチャップマン・トーの妙にリアルな愉快さとふと覗く繊細さが良かった。

 

 

 トレーラーがあったので

(チャッピーの不思議なというかなんか丸?にしか見えないボディ(だから後ろ姿だけだけど)が一瞬ですが映るので、苦手な方は一応、要注意!)

 



人間喜劇 預告片一

正体を知られない為に咄嗟にデタラメだけど頭揪の部屋に並ぶ映画DVDのタイトルを見事に並べて「自分の人生を語る」様も素晴らしかった。スイカのようなお腹丸出しだけど(借りたシャツの前がとまらない…) 

 

 

 

ほんとは「低俗喜劇」と間違えて、もう出てるんだーと買ったらこれだった。だけど損はしてない、してないぞーと自分に言い張っています。ぐっ、次は夜中に疲れ目で頼まない…

 

 

(2010~2013年に見た映画)