六月に雨が

You should take your umbrella.

ツ・イ・ラ・ク

 

 

ツ、イ、ラ、ク (角川文庫)

ツ、イ、ラ、ク (角川文庫)

 

 

 森本隼子、14歳。地方の小さな町で、彼に出逢った。ただ、出逢っただけだった。雨の日の、小さな事件が起きるまでは。苦しかった。切なかった。ほんとうに、ほんとうに、愛していた―。姫野カオルコの新境地、渾身の思いを込めて恋の極みを描ききった長編小説。~内容紹介~

 

楽しいのがいいと思っていても楽しいだけではなく、苦しいのが好きなわけではないけれど、痛みと切り離せない。痛い。ヒリヒリと擦りむいたばかりの傷のように。

 

膝小僧をなぜかよく擦り剥いていた小学生の頃のリアルな感じも十分に、冒頭から思い出したけれど。椿統子のような子いたなぁ。面倒くさい。でも昔のようにうわぁ…とならないのも、こっちも年をとり、そして統子ちゃんのような子も大人になった姿も見てきたからかもしれない。理解というのとはちょっと違うかもしれないけれど。

それから「誰々と誰々は夫婦や~!」みたいなしょうもない主に男子の囃し立て。(女子はそういう話は囁き交わす「叫ぶことではない」から)あ~もう、何やこの子供らは?と子供のくせに思っていたもう遠い昔。

 

そんな風に思い出したらもういやでもこの14歳の隼子の恋という、分かるようで分からない物語に入り込んでいた。

 

あぁ困ったなぁ。一応大人の何かを示すとか、ここは眉をひそめてか顎をちょっとだけ上げてかとにかく、14歳が恋なんて、と思って読まなくちゃ。そう思いたくても思えなかった。

 

14歳は分かる。自分の経験した、その周りにいた14歳たち。恋もまぁ一応分かる。でも14歳と恋、しかも

苦しかった。切なかった。ほんとうに、ほんとうに、愛していた―。

 というほどの恋なんて。

 

でも読んでも苦しくなるほどその胸の痛さ、息の熱さ、熱病のような幸福と苦しさが伝わってきて、これはほんとに恋なんだろうと思うと、14歳であることがかわいそうになった。こんなに人を好きになることなんてそんなに何度もあることじゃない。それにこんなに早く出会ってしまったら。

 

隼子への恋が捩れてしまった三ツ矢の歪んだ復讐の、あの教室にいた女の子達は隼子だけが特別なものを得たことに嫉妬するけれど、恋が得るだけのものじゃない、なんてそれこそ他の誰にも分からなかったのかもしれない。

 

長い長い間隼子が、その先明るい高校生になり進学し社会人になり、と普通に暮らしていても、時が止まったように変わらないまま、誰もあんな風に好きになることが出来なかったのは、罰だなんて思わないであげてほしい。何かを得る時は何かを失う。14歳でこんな恋をするのは、だからかわいそうだと思ったのだけれど。

 

だけど望んでも望んでいなくても「堕ちる」という恋に、二人とも揃ってちゃんと堕ちていたこの二人に、よかったねと思った。

長い時間の間に自分達でも気付いていなかったことに気付いて、やっとお互いに他のことを考えて言えないことのなくなった頃、再会出来てよかった、よかった。一緒になって泣いてしまった。
気恥ずかしい、恋だの泣いただの恥かしいことを言わせて、とちょっとだけこの子に腹が立つけれど、こんなことにまだ気恥ずかしなる私が大人げなさ過ぎるだけかもしれないし、この子が何をしたかではなく、こういう子だから私はやっぱりだいぶこの子が好きだなと思った再読でした。

 

 

 

 

 

今は14歳というと色々あるのかもしれないけれど、興ざめの話になるけれどまずこれはフィクションで、書かれていることから心までリアルに感じるのは作者の腕。そして小説だけれど、誰かの身勝手な欲望に従うことはない、ということも書かれていると思うので、もし自分が14歳の時にこの本を読んでいたとしたら、自分の身体は自分のものである、ということもこの本から得ていたかもしれないと思った。