記憶する一冊 『華氏四五一度質問』 猿の一ダース
”いまいちばん読みたい作家十一名の作品を並べました”
責任編集の柴田元幸によるブライアン・エヴンソンの書き下ろし翻訳から村上春樹の私的講演録「職業としての小説家」まで
MONKEY Vol.2 ◆ 猿の一ダース(柴田元幸責任編集)
- 作者: 柴田元幸
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2014/02/15
- メディア: 雑誌
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こういう、現代英語文学といえばいいんだろうか?言い方はよくわからないけれど、ともかく読むのは久しぶりで、ある程度の長さのある短編というのはちょうど良かったのかもしれない。翻訳ものだけでなく日本のものも、その背景や説明が丁寧に書かれてあるわけでもないのに、短編だから伝わってくるような空気と奇妙な後味に揺さぶられる。
川上未映子や川上弘美、日本人作家の短編も収められているけど、二編目に収録されている神慶太という人の短編「川」が印象的。
初めて作品を投稿してきた時、”何しろ字を何と読むかもわからず(まさか……かみ?)、だいいちあまりにいい作品なので、編集者一同、誰かベテラン作家が冗談交じりに偽名を使って投稿してきたのではと”疑ってしまった、という人らしく謎めいて不思議な作風の、けれどしっかりとした世界がこの人の中にあるんだろうなと感じる短編。おもしろい。(じん・けいたと読むそうです。)
小説以外で面白かったのが
『華氏四五一度質問』
編者から書物にちなんだ問いを、というコーナーのようで今回は
ご存じのとおりレイ・ブラッドベリの『華氏四五一度』は、書物の所有が禁じられた世界で、人々がそれに抗して、一人一冊ずつ、書物の内容をすべて記憶しようとする物語です。
ということでそれにちなんで
「もしあなたが、一人ひとりが一冊の書物を記憶する抵抗運動に加わるとしたら、何という書物を選びますか。またその理由はなぜですか」。
と作家や詩人、音楽家など様々な人に問いかけている。
理由、といっても”『いい本だからとしか言いようがないよ』”という場合にはその本にまつわる記憶や逸話、好きな一節についての話でも、その本への思いから始まる話でも”もちろん大歓迎です”という自由さもあって、それぞれの人の一冊とそれについての文章も本当に色合いが違い
一人目の福岡伸一という生物学者の方の
本を読むということは、一字一句を正確に記憶することではなく、それを読んだ時に引き起こされた感覚を心にとどめておく、ということだと思っています。
そんな一文からもう、それぞれの個性も見えてくるようでおもしろい。
では、あなたなら?
と問われていなくても思わず考えてしまった。
そうして考えてみると、記憶力に自信がないとつい長編は避けたくなるなぁと、でもリズムでまだ覚えやすそうな気がするお経や詞で、自分が記憶しておきたいと思うものがまだないし…と考え込んでしまってキリがなかったので、ここはわりと最近読んだ本の中から一冊、と範囲を決めることにして考えた、私の記憶する一冊は
短編を集めた本の企画ということも選ぶ気持ちの中にあった気もしますが、理由としては、今の本であること、広がりがありここからまた広がっていくように感じたことから。本が禁じられるという世界なら存在しない小説が広がっていけばいい、という意味も込めてのこの一冊にしました。(本の感想は 『存在しない小説』のレビュー いとうせいこう (andoooooさん) - ブクログ に。 )
好きな本、読みたい本、と本をめぐってあれこれ思うことはあるけれど、記憶しておきたい本 、記憶する一冊は?
そうあらためて考えてみると違う角度で見えてくるようで面白かった。
ちなみに記憶するための時間はひとまず”ほぼ無限にあると仮定”されています。よかった…
- 作者: レイブラッドベリ,Ray Bradbury,宇野利泰
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/11
- メディア: 文庫
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この猿の一ダースに収められている内外の短編たちから感じた不思議なようで日常に通じているような読後感も、本が忌むべき禁制品とされた世界を描いた「華氏四五一度」にどこか繋がっているように感じます。