無妳就無我
九份という場所を知ったのは「非情城市」という台湾映画だった。かつては金鉱として栄えやがて寂れたという町に夜の明かりが灯る様は、酔客で賑わっていてもどこか物悲しく見えたからか
”深い深い愛は この歌のよう 歌って泣いて残されるのは私一人 茫々とした心 胸いっぱいの心の声 愛する人よ あなたがいなければ私もいない”
台湾語で歌われる悲恋の舞台にも似合っているように思え、共演のリー・カンイ(李康宜)の可憐で素直な瑞々しさと、悲しい愛に走る姿のどちらも生きいきとして、短編映画を見てるようだといつも思う。
動画の中で彼女達が顔に白い粉をはたいて糸で擦ってもらっているのは、台湾では昔ながらのものだという産毛取り。昔は町角でしてくれるおばさんなんかがいたというけれど、今もあるんだろうか?と思って調べてみたらこのページが出てきた
台湾で糸で産毛取り・脱毛した方の感想のまとめ - NAVER まとめ
なるほど、エステなど進化もしているようだけど現在もあるようですが。
歌っているこの動画の主演はリッチー・レン(任賢齊)「エグザイル/絆」などにも出演している台湾の歌手で俳優。
長い間下積みというか、兵役から戻ったらレコード会社が倒産していて、備品などと共に別のレコード会社に引き取られたものの、長く機会に恵まれずにいたのが、ある日突然「心太軟」という曲が大陸で大ヒット。それから歌だけではなくセシリア・チャンと共演した「星願~あなたにもういちど」という香港映画がヒットしたりと、あっという間に「亜州新天王」と呼ばれるスターになった人。
「好男人」日本でいえば「良い人」や「好青年」というようなイメージが強いのか、映画もラブストーリーやラブコメにも多く出演していたけれど、普通のラブソングの間々にこういう男くさいというか、裏街道に生きる男というような世界をMVなどでよく見せていて、 上の動画を監督しているのはニウ・チェンザ(鈕承澤)
この中島みゆきのカバー曲「傷心太平洋」などで友情出演もしている、台湾の俳優出身の映画監督。
日本でも放送されていた台湾ドラマ「求婚事務所」など自ら出演もしている監督なんだけど、この顔でしごかれたら俳優もさぞ言う事よく聞くだろうなーと思う、鋭い強面がこのMV中での役もよく似合っているニウ・チェンザと、兄弟仁義的なドラマを演じているリッチーを見ていると
やっぱりニウ・チェンザも出演の、これは自身で監督したというこのミュージックビデオでも
ターシー・スーと共演でクールな殺し屋を演じていたりと、「ブレイキング・ニュース」から始まって出演しているジョニー・トー作品のような、硬い男の世界、シリアスでハードな映画に出ているのは本懐だったのかな、と思うんだけど
任賢齊-對面的女孩看過來 (官方完整版MV) - YouTube
アクションもよく動けて、体育系の学科出身とかで体つきもしっかりしてるんだけど、台湾ではこの歌でやっと人気が出たというこの頃から、なぜか首の辺りがなんかふにゃふにゃっとして、どこか愛嬌というか可愛げがあって、日本でもリメイクされた「星願」でのような、純情青年の役もやっぱり忘れ難い、また見たくなってしまう。
なぜか疑問系になってるけど、ファンタジックなラブストーリーに疑問は感じない。助演のエリック・ツァンおじさんとのやり取りといい、リッチーと、可憐でたまらなかった頃のセシリアに涙絞られるいい映画です。
悲恋が好きかというとぜんぜん好きじゃない、というか泣かせようとしてると思うと泣かされてたまるか、と思うほうだから香港映画が好きなんだと思うんだけど、それでもセシリアの泣きにはもう構える暇もなく胸突かれるような、切実さというか、たまらないものがあったなぁと
これも、正直喜劇だと思うと破綻していると思うんだけど、この映画でセシリアの演じる女の子の、グッと一度は堪えてから流す涙、鼻を赤くして号泣する姿に、こちらまでボーボー溢れ出て止まらなくなってしまう。
セシリアの話になってしまったけど、ぜんぜん種類は違いますけど
悲劇を描いた映画ですが、今のまた賑わいを見せる光景とは違う九份を舞台に、人々の姿、物言わぬトニー・レオンの瞳が、淡々と静かに、けれど力強く胸をうつ見応えのある映画だと思います。