六月に雨が

You should take your umbrella.

スター毒殺事件

 

新東宝映画傑作選 スター毒殺事件 [DVD]

新東宝映画傑作選 スター毒殺事件 [DVD]

 

監督:赤坂長義 1958年

出演:天地茂 万里昌代 三原葉子 江見渉 沼田曜一

”スター俳優である上原城二(天知茂)は愛する女性・真理(万里昌代)を新人女優として同じ映画会社へ入社させるのだが、真理は順調にスター女優になっていくと共にトップスターである須賀(江見渉)と接近し… ”

 

 

第七映画という架空の映画会社、映画界を舞台にした男女の愛憎。

ミステリーかな?と思ったけれどフーダニットでもなく、天知茂が見た目に似合わず純愛というか、愛し過ぎたあまりの愛憎…という犯罪ものという感じでした。

 

 

 モノクロでねぇ、時代的にも、みなさん映画スタアという風格あるんですけど、主演女優の方もエキゾチックな目の印象的な人なんだけど、天地茂の美貌ときたら。

その天知茂=城二よりもトップスタアで、ヒロインの心も奪うプレイボーイという華々しい役柄の人が、なんとなくあまりそう見えない。

逆じゃないのか?

と最初思ってしまった。

天知茂の個人的なイメージというのが、「非情のライセンス」や明智小五郎もなんだけど、更に大昔だけど四谷怪談のイメージもけっこうあって

こう、純情な青年の恋人を奪うほうとか、色悪のような役柄のほうが似あうんじゃないかなぁと最初思ったのですが。

 

 

恋人が意外と野心まんまんでスター街道を順調に歩んでいって、どんどんトップスターのほうと親密になってほったらかしにされて、誕生日パーティーにも真理ちゃんが来てくれない…って気にしてる男性が天知茂というのにも違和感あったんですが

とうとう二人の情事を目撃してしまった時の、苦悩と衝撃に満ちた表情。

 

ふつくしい

 

凄惨な心情、白いスーツに黒いシャツのコントラスト。愛が憎に、復讐へと転じていく暗い翳りも、彼ならではの香りが馴染んだ香水のように匂いたってくる。

 

 

個人的には主人公に言い寄ってくる女優さん(三原葉子)が華やかで、魅力的に感じました。

天知茂があんなに壮絶な心を表しているのに、真理ちゃんのほうはあんまり揺れとか見えてこなくて。もうちょっと後ろめたさとか、あるいはいっそ思い切りしたたかな悪女とかのほうが、おもしろかったかなーと。

全体的にグラマラス女優さんも多く、ちょっと色っぽめ(古めかしいけれど)なんだけど、そんな場面もパンチがいまいち、バーン!と映画的盛り上がりに欠ける、なぜかこじんまりして、そこはかとなく間の抜けた感じは、もしかして新東宝映画らしいのかな?という気がしましたが。

だからサスペンスなんだけど緊張感もそんなに感じられない。その分気楽に見られましたが。

 

城二が罪を犯してしまって、ピリピリと警戒、緊迫しているはずの場面も、どーーーしてもコートの襟とか着方とか、時代かな?と思うけどそれ以上に独特な感じ、変な所が変に気になったりしてしまうのですが、それでも天知茂の表情、醸し出す罪の匂いに魅かれる。

 

おかしな言い方かもしれませんが、罪が似合う。

 

復讐を企てるも、真理ちゃんとはまだ昔のように戻れるんじゃないかと期待してたりはするけれど、ぐっと首を突き出して詰め寄る、追い詰める姿にゾクっとする。拒否されているのにかき抱く姿の悲壮感。

 

天知茂は女性を抱き上げて歩く姿もとても似合う。

明智小五郎と黒蜥蜴なんかとは違って、それは自らの罪なのだけど…

逃亡劇の中、トップスタアや恋人の顔が思い出され、自らの罪の意識に追い詰められて、どんどん乱れていく前髪と共に悲しいクライマックスへ

 

”真理はもういないんだ、逃げてどうするんだ…”

 

最後の独白で、彼が真理ちゃんをただ愛していた、結局は本当にただそれだけだったんだなと思うと、空しく悲しい。愚かな愛。こんなに美しいのになんでそんな坂道を転げ落ちていってしまったんよ…と思う映画でした。

 

 

町の風景はあまり出てこないのだけど、撮影所などは本物のようで、撮影所の様子や、映画の撮影風景などがよかった。

都会だけどなんか空が高くて広くて、のほほんとして。あまり殺伐として見えないのはそんな風景のせいもあったのかもしれません。