Paper bird.
まだ夏にのり損ねているのか夕べは早くから薄暗い、銀灰色みたいに鈍く光りながら沈んでいく夜に、蝉の声だけ長く聞こえていた。
いつもこんなものだったか、天候のせいで蝉が夜になった気がしないのかわからなかったけれど、蛙の合唱じゃないのかと耳を疑ってしまった。
子供の時に地方の町から地方の田舎へ引っ越した頃、山の裾をずーっと歩いて歩いて歩いて…行けども行けども学校に着かない気がしてくる、毎日ちょっとしたピクニックほど歩かないと登校できないことにも驚いたけれど
そのちょっとした森林のようだったり小山みたいだったり田んぼのあぜ道のような通学路の途中、6月くらいになると、地の底から山の上へと響くような世にも恐ろしい「音」が聞こえてきて震えあがった。
なんだこれは?もしかして聞こえてるのは私だけ?、とあまりに誰も何も気にしていない、そんな音なんて誰にも聞こえてもいないような様子に誰かに聞くことも出来ずに
通学路にじごくの音がする・・・と一人胸に恐怖を秘めながら慣れない道を急ぎ足になろうと、逆にギクシャクして通り過ぎながら日々ドキドキとしていたのだけれど
ある日、夏休み前の何かだったろうか、それぞれ保護者と一緒に登校してくださいという日があり、でもその日もその場所に差し掛かった途端やっぱりそのじごくからのような音がハッキリ聞こえてきて響きはじめ、あ~…と怯えていたら保護者が言った。
「あ、ウシ蛙や」
田んぼも山もない所から、田畑と池と川と山とかばかりある場所へ来たばかりの子供は、蛙というと愛らしく小さな緑色のアマガエルくらいしか見たことも聞いたこともなく、ウシガエルなんていうこんな声で鳴く蛙がいることも知らなかった。で、えー…蛙…とホッとしたのか阿呆らしくなったのか、ともかくガックリと何かが抜けて、何のことはないとはこういうことか、と知った小3の夏でした。
ケロケロ。