inner garden
カンカンと照る日差しが非常に厳しかったのでカフェには人が蟻のように群がっていたけれど、材木商宅だったという旧家はシーン…あまりにからんと空っぽの様子に、ど、どうしよう…としばらく入った所に佇んでいたけれど
よく見ると入場料入れの箱が置いてありチケットも「ご自分で千切れ」とばかりに置いてあるのに気付いた。
入る前に入場料100円って書いてあったのは見て知っていたけれど、路上の野菜の無人販売みたいなシステムなんだろうか?
少し戸惑いながら、でもいつまでも戸惑ってても仕方ないと財布から100円玉を一つ出して「はい、今入れます」もし誰かが見ていたとしても…と小心者の自意識過剰を絵に描いたようになりながらわかりやすい動作で100円を箱の口に落とし、ではとチケットをミシン目に沿ってぺりぺりぺり…
している所にとつぜん横の座敷から「はいはい」と人が現れて、そ、そんなシステムだったのかと内心動揺を覚えながら「こ、こんにちはー」挨拶を交わし、
あー、でもたぶんいきなり「いらっしゃいませー」と飛び出て、では入場料を、というのもねぇ、とかの色々があってこういう風になったのかもしれないなぁと
こちらの見学している様子をさりげなく見ていて、興味を示している場所でタイミングよく声を掛けてわかりやすく簡潔に話を聞かせてくださった、近くの方々が交代で務めているというボランティアスタッフの方のガイドぶりに
決まった手順で一から十まで説明をするより面倒といえば面倒なことだろうけれど、そんな風にも思わせず、でもお聞きしなくてはならないというような堅苦しくも感じさせない絶妙の気遣いに思ったりしながら
誰もいないのをいいことにゆったりと見学させてもらったのだけれど
立ち入れる範囲の一番どんつきにあたる、目の前にはどーんと蔵らしき壁があり(今は横の一つだけだけれど元は蔵がいくつも立ち並んでいたそう)周りをしっかり囲まれた本当に中庭らしい造りの小さな坪庭は
けれど縁側に立つと思いがけないほど心地のいい風が吹いてちょっと驚いた。どういう仕組み(というか設計なんでしょうか)なんだかわからないけれど、川沿いにあるのでも開けているわけでもない町屋の中庭なのに
少し向こうのあの海のような河口からの川風がしっかりと入ってきては、庭を抜けて座敷へと通るようになっているのだった。
冬は雪も降るしあまり造りこんではいない庭とのことだけれど、この外を歩いていた時には微かにも感じられなかった風がちょうどいい塩梅に吹いては通り過ぎていくから、ガラスに遮られることもなく庭を眺めていられ
外からはわかりにくく一見ささやかで平凡に見えて、これはなかなかひっそりと贅沢な庭なのではなかろうかといつまでもそこに立っていたくなってしまった。
ここに、いや家とは言わないからせめてこの縁側に住みたい、と思うだけでなくガイドさんにも素直な感想を言ってしまったのだけれど
もうこれは来世で猫に生まれるしかないな、そうしてこんな縁側を持つ猫好きの人間に運よく出逢えますように…すごく確率の低そうな願いを庭に掛けて、しばらく張り付いたようになっていた縁側からようやく他の場所へ移動した。
それで二階にお邪魔させてもらったのだけれど、二階へと上る階段は階段というよりちょっと短めの梯子っぽく、一段の幅が狭かった。超狭かった。
ちゃんとガイドの方も「階段が狭くて急ですので気をつけてください」とおっしゃってくれましたが
私靴のサイズは23,5~24ですが一段上った途端に「小っちゃ」って思った段に、素直に注意に従って爪先でそろりそろりと用心している猫のように慎重に上った。ツルツル滑るような靴下は向きません。滑り止めのついた靴下を推奨したい。
一段の幅だけでなく全体もこじんまり一人用という感じ。子供でもサイズによってはすれ違うのは無理かもしれない、ぎゅうぅってつっかえるかもと思った。
そんななんとなく隠された部屋に通じるような階段はしかし少年探偵団心を刺激されたり、「お二階の方々お逃げください、新撰組でございますーっ!」とかぜんぜん関係ないですが言いたくなる雰囲気でよかったです。
そうは写せていないけれども、二階から見る庭の四角かげんもとてもよかった。
なぜかわからないけれど丸よりも四角がいい、こじんまりとして小さければ小さいほど尚いい。だからミニチュアや箱庭的なものに惹かれるのだわねーとあらためて思ったり。
それで自分でもひつこっ(しつこいの意)と思いながらも下に下りてから、庭の記憶を切り取って帰らん、と縁側に立ちもう一度しっかと目にも焼き付けて、ありがとうございました、とお屋敷を後にした。
重そうな風鈴も、たぶんあの川風にちょうど良いのだと思う。
今週のお題特別編「はてなブログ フォトコンテスト 2015夏」