碧い底
色々おもしろい話が多かったのだけど、中川翔子が自選のねこにまつわるアンソロジーに「『聖ジェームス病院』を歌う猫」を選んだという話から、筒井康隆のあれがこうで好きで…と話しているのを聞いていて、筒井康隆でどれが好きだったかなぁと、頭に浮かんできたのは短編「碧い底」だった。
昔「ウィークエンドシャッフル」で読んで、後に再編されたリリカル短編集でもまた読んだ覚えがあるけれど、抱腹絶倒の、怖いの、悪いの…他にも強烈な短編が収まっている「ウィークエンドシャッフル」の中で、最初は特別印象的だった覚えもなかったけれど
ちょっと息苦しそうな顔をした男が、犬のゴローさんに案内されて、水底から仄暗い光のほうへゆらゆらとゆっくり上昇していく…
絵で見たわけでもないのに、そんな情景が頭に残っていたように浮かび上がってきて、もしかしたら思っていたよりずっと好きだったのかもしれない。
個人的にはリリカルで集められた再編集よりこっちで読んだほうが、暗いけれどムードのある話の良さ、経験したのか夢で見たのかわからなくなるけれど、覚えがあるような水の感覚が感じられたような気がします。
この間から久しぶりに筒井康隆を読みたくなって「壊れかた指南」という本を、長編だと勘違いして借りてきて読んでみたら短編集だったので驚いたのだけれど、とりあえず読んでいると、昔読んだ短編集のような凄まじきドタバタの熱狂のようなものはなかったけれど、追憶か夢のような、それとも夢そのものかというような話から始まって、また別の夢の果てに
おれは、いや、わたしは思った。ああ。なんて歳をとってしまったんだろうなあ。わしはもう老人になっているのだ。
と嘆息するように言うので、それなりに枯れているのか、そういう境地の本なのか…と思いきや、本人もごくあっさりとブラックでナンセンスな上に更に怖い「余部(あまりべ)さん」の登場する話があったり
小説に結末がなければいけないという法律はないのだ
としまいには言い出したり…
つまりますます壊れていて、なぁに歳をとったからといってまとまろうとすることなんてない、むしろどんどん壊してしまえ、と言っている、小説のスタイルとしてもまさに指南しているような本でおもしろい。
で、動画を見て話すスピード、内容からしてぜんぜん枯れてるどころじゃないなと改めて思いました。(動画は番組公式のものです、念のため)
「聖ジェームス病院」を歌う猫も「夜のコント・冬のコント」で読んだ覚えがあるんだけど、内容は忘れてしまっていることに気がついたので、他の作家の話も色々収録されているようだし、これを機会にまた読み返してみようかにゃと思いました。