六月に雨が

You should take your umbrella.

おばさんのポストモダン生活

原題:姨媽的後現代生活

監督:アン・ホイ(許鞍華) 2007年

音楽は日本の久石譲


出演:スーチンガオワー(斯琴高娃) チョウ・ユンファ(周潤發)
リサ・ルー(盧燕) ヴィッキー・チャオ(趙薇)
クワン・ウェンシュオ(關文碩)

 



桃姐を見る前に客途秋恨を久しぶりに見て…から始まって
一人アン・ホイ監督祭りのようになっていた中で見た映画

 

 

トレイラーがあったので

 


The Postmodern Life of my Aunt 2006 Chinese ...

 

 

 

フルムーン・イン・ニューヨーク 以来のスーチンガオワーかもしれない。
フルムーン・イン・ニューヨーク(人在紐約)を見た時も、スゴイなーと感じるような貫禄だったけれど、迫力もとーぜん増してらっしゃる。


でも前半はとても愛らしい姿も見せてくれる。
大都会上海に退職後一人で暮らすおばさん(斯琴高娃)のもとに、甥である少年クァンクァン(關文碩)がやって来て…

少年の目を通しておばさんの生活を見ていくことになるのだけど…

 


どんな映画か、長々と書いてあるので
内容は知りたくないと思う人は読まないほうが吉。

 

冒頭おばさんの甥であるクァンクァンが乗った列車の中から映画はスタートする。到着したのはおばさんの待つ上海。


明るいムードに満ちた都会的な駅の構内、派手な傘をさしたおばさんの登場。黄緑色の傘に水玉のワンピース、甲高い声をあげて甥の名を呼びつつ、おばさんの大声に近くにいた人が思わず気絶して…じゃなくてこれは「暑さのせい、暑気あたりじゃない?」とおばさんはおっしゃっているけれども


そんな眩しいくらいの季節、夏の上海


隣人がレースのスカートを履いた猫を飼い、部屋の外にまで響く声で歌っているなら、おばさんはおばさんで部屋の中に鳥を10何羽も放し飼いにしていて、クァンクァンを驚かせる


おばさんの生活は家具の色合いといいカラフルだけれどおばさん自身は派手ではなく、むしろ華やかに女性らしいというかマダムらしい雰囲気のお隣のマダム水(リサ・ルー)とは、あまりそりがあわないけれどお隣だからしかたない、と近所付きあいしている風


クァンクァンを歓迎はしているけれど、ケチで口の達者なおばさんに、でもぜんぜん負けてない、ちゃんと観察して対応する現代っ子で、へんな遠慮の無いクァンクァンとのやりとりといいユーモラスでテンポよく


おばさんは家庭教師の職を得るけれど、おばさんの誇りであるのかもしれないインテリジェンス、イギリス式イングリッシュも「たしかに品のある素晴らしい言葉だ、だけど現在誰が喋る?」アメリカへ行く息子には役に立たないと、丁寧にだが、クビにされてしまったり。その帰り道で、八つ当たりか、それともおばさんには許せない都会生活でのマナー違反だからか、道で魚をさばく奥さんに公衆道徳を説いて、怒ってみたり


クァンクァンが突然いなくなって、おばさんを慌てさせるのだけれど、家出して会いに行っていたのは、互いに顔を知らずにネット上でやりとりしていた年上の六公主こと 赤く染めた毛先の印象的な少女、飛飛(王子文)で
髪で覆った顔の半分にやけどのあとの残る飛飛は12歳だったクァンクァンの正体に怒りながらも自宅まで連れていき、会わせてくれるのは彼女の認知症の祖母で…


古い町並みとモダンな大都会の間で次から次へ…という感じに個性的な人々が登場し、出来事が起こっていくのだけれど

 


クァンクァンが家出騒動だけでなく、偽の誘拐事件を起こした時「私がやったのよ」と警察相手に言ってくれたおばさんに

クァンクァンがいなくなった、と慌てて電話したのに「彼はよく失踪するの、そのうち戻ってくるわ」と電話を切ってしまったママより温かみを覚えたのか、さすがに家に帰ることになった別れの時「おばさんは明日から一人でご飯を食べるの?」と聞くクァンクァン

 

 

クァンクァンが家に帰った一人の部屋でベッドから出てくる贈り物…

 

 

クァンクァンという少年の目を通して見たおばさんの生活、という映画かなと思っていたのだけれど、話はここで終わらず、少年が去った後もおばさんの生活は続いていく


秋の空高い公園で、一人太極拳の剣の練習をするおばさんの耳に届いたのは、京劇の歌声。お爺さんたちを前に見事な唄を聴かせていた男は潘知常(演じるのはヒゲをたくわえたチョウ・ユンファ)おばさんが口半開きになるのもムリはない、口をはさむ隙もないほど己のことをどんどん勝手に語り続けるユンファのコメディタッチの可笑しさ、憎めなさ。


彼と知り合って間もなくのある日、食堂で一人食べるおばさんの相席となる
顔から血を流しているチャイナドレスの女・金永花の身の上に、私だって余裕もないけど…と見捨てられず、とりあえずうちで家政婦でもして仕事を探しなさい、と置いてあげるも、人生体当たり過ぎる彼女におばさんは我慢できず、追い出してしまう

 

そして最初の出会いから、すぐ消えていたことに腹をたてつつも、再会し、家に行っていい?と言う潘を断れないおばさん


人の口にのぼりたくないから…というおばさんに、間男でもないのにいかにも間男然としたユンファのついて行きぶり、エレベーターもだから使わず12階まで、息切れしながら昇る二人の姿の可笑しみ、味わい…


うさんくささと、いい男かげんのなんとも言えないいい塩梅の潘に、おばさんでなくても、これはほだされるというか、魅せられるのもしかたない気持ちになる。


愛のシーンから続く二人の京劇の扮装をしての戯れの美しさ、愉快さ、楽しさに、笑った後に泣いてしまった。


ほんとに人老了就愛哭かもしれないけれど…

 


ここで終わればほんとうに、夢のように美しい映画なのかもしれない。

タイトルやポスターなんかからイメージしていた、楽しい映画ではないのかもしれないとこの辺りでわかり始め、楽しいという後味の映画ではなかった。いい映画だったと思うけれど

 

 

クァンクァンとおばさんの…というような映画と思っていたらわりと早いことクァンクァン帰ってしまうし。

でも消える人ばかりでなく、再び会う金永花に、けれどおばさんが何も言えないのも、その後といい、胸が、痛いというより苦しくなる。

 


おばさんが病院の窓から見るあんなにも大きな月

 

 

病院で十何年ぶりに再開する、田舎に捨ててきたおばさんの娘・大凡

服装といい、喋り方といい、中国の地方の若い女という感じのヴィッキー・チャオがいい。私とパパを捨てて上海へ一人で帰ったくせにと怒りをぶつける娘。一度も振り返らず捨てて去った姿を今でも覚えてる、と…

 

それでも東北へ、おばさんを連れて帰る娘。町はイルミネーションも輝く冬の上海の夜。去り行くおばさんの目に映る華やかな大都会。

 

 


そして冒頭とはまったく違った景色、寒さで窓が曇る列車で再びおばさんに会いにやってくるクァンクァン。工場の煙と土ぼこりだらけの町。

 

娘は従弟であるクァンクァンにも遠慮もないかわり優しく、気遣いある心根の良い娘だったけれど、ものも言わず黙々とご飯を口に運ぶおばさんを見つめるクァンクァン

 

もうすぐ外国へ行くというクァンクァンが帰った朝も、魚もガッチガチに凍る東北の市場で夫とともにやっぱり黙って靴を売る合間に、ただ黙々と食べ物を口に運ぶおばさんに、クァンクァンでなくても、あのおばさんはどこへ行ってしまったんだろう?上海での生活はまるで夢のように思えてくる…

 

 

 

 

 

いい映画だったけれど、この後に桃姐(桃さんのしあわせ)があってよかったなとは思って、ただあれもこれもまた人の生活だと思うのだけれど。

俳優たちの演技に魅力に最後まで見せられて、苦い味も残る、あぁ…と言葉も出なくなる終わりに、でも見なければよかったとは思わなかった。

 

 

忙しいクァンクァンのママだってそれはクァンクァンの為で、だから彼は外国へだって行けるのだし。それでもクァンクァンがもう一度遠くまで会いに来ようと思ったのはおばさんという人の温かさがあったからなのだし…けれどおばさんの上海での幸せな生活は終わってしまって…
とそれぞれの生活を、アン・ホイ監督の人も社会もどこか淡々と、冷たいという感じではなく、すべてに同じように距離を置いて見ているような目線を感じるからかもしれないけれど

楽しい映画ではぜんぜんない終わり方だけれど、クァンクァンもまたおばさんの家で見た、大きな月。どこへ行っても彼はまた見上げるのかもしれない。その月が穏やかに彼の生活を見守ってくれればよいなと願う。

 

 

 

スーチンガオワーは若い頃はきっと美人だったんだろうな、と思う。その面影も確かに感じるのだけれど、転がるような前半の喜劇的な展開では藤山直美を思い出したり…いや喜劇的な中に凄みもあるからかもしれないけれど、赤い全身水着のインパクトよ…
そのおばさんに一時の夢を見せた、罪なのか、でも悪気…なかったんだよね?と最後にやっぱり一抹思いたくなるユンファといいよかったなぁ、ほんとにもう。

 

京劇の歌うシーンは…吹き替えだよね?と思ってしまう歌唱力のユンファだったとは思うのですが


1988年度叱咤樂壇流行榜頒獎典禮得獎名單 - 维基百科,自由的百科全书


香港の商業電台というラジオ局が主催する音楽賞なんだけど、ある時ふといつからあったんだろう?と思って見ていた時、懐かしい人、歌、とこの頃並ぶ人達を見て、眺めていったその最後にいきなり

叱咤樂壇Very Nice大獎: 周潤發


ってなんだこれは。最後にこの、なんか人をくったような感じはやっぱり軟硬を育んだ商業電台なのかしら…などと思ったりしてたんでしたが

 


この映画を見てVery Niceなユンファもまた思い出したり…

もっとずっと、味わいといい増しているんだけど、憎めない魅力、映画を見ているこちらの懐にまで飛び込んでくるような懐っこさが嬉しいと共に、おばさんの気持ちになって困って呆然としてしまったり…

 

 

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最後にはタメ息というのじゃないけれど、ハァ…と後半いつの間にかつめていた息を吐くような、映画の中で巡る季節は、人生であるかもしれないなぁとも思えてきたり。

 

(2010~2014に見た映画)